クラシック音楽へのおさそい~Blue Sky Label~



AmazonでCDをさがすAmazonでチェルカスキー(Shura Cherkassky)のCDをさがす
Home|チェルカスキー(Shura Cherkassky)|バッハ:シャコンヌ(ブゾーニ編曲)

バッハ:シャコンヌ(ブゾーニ編曲)

(P)チェルカスキー 1956年3月23日録音



Bach:シャコンヌ(ブゾーニ編曲)


テイストは原曲とはずいぶん異なりますが・・・。

ピアノにおけるヴィルトゥオーゾは1831年にリストがパガニーニを聞いたところから始まるのでしょうね。この時、若きリストは「ピアノのパガニーニになる!」と叫んだらしいのですが、まさにここからピアノ音楽における「鬼子」とも言うべき超絶技巧曲の系譜が始まりました。
この音楽の特徴は記録の更新を目指すエリートスポーツの世界と似通っています。
陸上競技の選手が100分の1秒の短縮を目指してしのぎを削るように、超絶技巧曲の世界も「それは弾けんやろう!」と思われるような高みを目指してしのぎを削ります。ですから、そこには、クラシック音楽の十八番とも言うべき「精神性」などというものが入り込む余地は全くありません。超絶技巧曲というのは、そう言う「精神性」などと言う不純物は一切排除し、余人には想像も出来ないような超絶技巧の高みを目指して徹底的に純化された作品群なのです。

リストが活躍した19世紀はそのような超絶技巧がもてはやされ、聴衆もその様な名人芸の披露に拍手喝采をおくった時代でした。
ところが、どういう訳か、20世紀に入ると雲行きが怪しくなっていきます。
20世紀のクラシック音楽の世界ではそのようなシンプルな名人芸ではなくて、何だかよく分からない「精神性」が大手を振って闊歩するようになっていくからです。
そうなると19世紀に大量生産された超絶技巧曲達は身の置き所がなくなっていきます。
なにしろ、「精神性」などというものは名人芸を披露する上での不純物だとして、そんなものは徹底的に排除するという方向性の上で成り立っている音楽なのですから、それは困ったことになるでしょう。
やがて彼らは、内容空疎な技巧のためだけの音楽としてB級音楽のレッテルを貼られ、その大部分は歴史の闇の中へと消えていくことになります。
事情はリストの作品においても同様で、19世紀の聴衆をあれほども熱狂させたにもかかわらず、20世紀にはいるとその評価は急激に下がっていきました。
それは録音を見てみればすぐに分かることで、1920年代ぐらいまでは19世紀の生き残りとも言うべきピアニスト達が取り上げていましたが、それ以後は探し出すことすら困難なほどになってしまいます。
私のサイトにリストのピアノ音楽がほとんどアップされていないのを見て、私がショパンを過大評価し、リストを過小評価しすぎていると批判する人がいるのですが、実はどう評価しようと、アップすべき音源がほとんど存在しないという事実があるのです。

さて、前振りが長くなってしまいましたが、このブゾーニ編曲のシャコンヌは、その様な19世紀的な超絶技巧曲の系譜に入る音楽です。さらに絞り込めば、編曲系の超絶技巧曲という範疇に入ります。

この編曲系の超絶技巧曲とは、世間でそれなりに人気のある曲をもとに編曲することで、普段よく聞いている音楽がスンゴイ名人芸でこんなにも凄くなるんだ!とぶちかますのです。そして、この時に取り上げられる機会が一番多かったのが有名なオペラのアリアでした。まあ、どう考えても一番の売れ筋です。

ところが、ブゾーニはそんな中で、バッハ作品を元曲に取り上げることが多かったという珍しいヴィルトゥオーゾでした。そして、19世紀には数多く生産されたそのような編曲系の超絶技巧曲は20世紀にはいると大部分が闇の中に忘却されていくなかで、不思議なことにブゾーニが編曲したバッハ作品は今でも結構よく取り上げられています。
とりわけ、このシャコンヌは一連の超絶技巧系の編曲ものの中ではもっともよく取り上げられる作品ではないでしょうか。

おそらくその背景にはバッハの壊れにくさがあるのでしょう。
バッハの音楽というのは、どの様にいじられてもバッハであることを止めません。それは、あまりにも壊れやすいモーツァルトの対極にある音楽だと言えます。
ブゾーニの編曲によるシャコンヌも、聞いてみると随分といじくり回しています。何よりも、音符の数が多すぎて、ヴァイオリン一挺で宇宙を描いたと言われる原曲とは随分とテイストが異なります。しかし、そう言う違和感を覚えつつ、さらにはその名人芸に感心しつつ(^^;聴き進んでいくと、やはりバッハの世界が立ち上ってきます。
おそらく、それ故に、この作品は凡百の編曲系超絶技巧曲の中で今も生き残ることができたのでしょう。


19世紀的ヴィルトゥオーゾの最後の生き残り

チェルカスキーは日本では長く無視されていました。名人芸をひけらかすだけの内面空っぽのピアニストというのが通り相場で、バックハウスやケンプなどとは比ぶべくもないというのが一般的な評価でした。
そんなチェルカスキーに脚光があたったのは、おそらくN響の招きで定期演奏会でチャイコフスキーのコンチェルト(それも1番ではなくて2番の方!)を演奏し、さらにはアンコールで美しき青きドナウを演奏して聴衆の度肝を抜いたことからでしょう。
調べてみると、彼は1988年からは毎年来日してはリサイタルを開いていました。ですから、一部では知る人ぞ知ると言う存在だったのですが、やがてその評判がN響にまでも達して定期への招聘となったのでしょう。
間違いなく、あれで多くの日本人の耳とココロに彼の名前が刻み込まれたはずです。

実はあの演奏会は、私もぼんやりとテレビで見ていました。それが、やがて居住まいを正してソファに座り直し、やがて身じろぎも出来ずにテレビに釘付けとなり、最後はせめてアンコールだけでもとあの美しき青きドナウだけを録画しました。
それから、あのテープを何度見たことでしょう。(残念ながら、そのテープは度重なる引っ越しの中でどこかへ消えてしましました。)

ブログの方でもこんな風に書いたことがありました。

「Cherkasskyというピアニストを初めて知ったのはN響に招かれて、チャイコフスキーの第2番(1番じゃないですよ・・・!)を演奏したときです。もちろん、それもよかったのですが、度肝を抜かれたのはアンコールで演奏した「美しき青きドナウ」の方でした。
これは、シュトラウスのあの有名なワルツをピアノ版に移し替えたもので、もう外連味タップリの音楽です。そして、この「大道芸」のような音楽をチェルカースキーはこれぞ「芸人」言う貫禄で弾ききってくれました。

そうなんです、私は「芸人」が好きなんです。
ツンとすました自称「芸術家」面した面白くもおかしくもない音楽が垂れ流される中で、もう彼の音楽はこの上もない「救い」とうつりました。」

そんなチェルカスキーのまさに全盛期とも言うべき時代の録音がこれです。
これもまた、クラシック音楽の楽しみ方の一つだと思います。録音もステレオ黎明期とは思えないほどの優秀さで、チェルカスキーの腕の冴えをはっきりとすくい取っています。

この演奏を評価してください。

  1. よくないねー!(≧ヘ≦)ムス~>>>1~2
  2. いまいちだね。( ̄ー ̄)ニヤリ>>>3~4
  3. まあ。こんなもんでしょう。ハイヨ ( ^ - ^")/>>>5~6
  4. なかなかいいですねo(*^^*)oわくわく>>>7~8
  5. 最高、これぞ歴史的名演(ξ^∇^ξ) ホホホホホホホホホ>>>9~10



1171 Rating: 5.3/10 (167 votes cast)

  1. 件名は変更しないでください。
  2. お寄せいただいたご意見や感想は基本的に紹介させていただきますが、管理人の判断で紹介しないときもありますのでご理解ください
名前*
メールアドレス
件名
メッセージ*
サイト内での紹介

 

よせられたコメント

2009-10-26:カンソウ人


2009-11-08:マニア2号





【リスニングルームの更新履歴】

【最近の更新(10件)】



[2024-04-18]

エルガー:チェロ協奏曲 ホ短調, Op.85(Elgar:Cello Concerto in E minor, Op.38)
(Cello)アンドレ・ナヴァラ:サー・ジョン・バルビローリ指揮 ハレ管弦楽団 1957年録音(Andre Navarra:(Con)Sir John Barbirolli:Halle Orchestra Recorded on 1957)

[2024-04-16]

フランク:ヴァイオリンとピアノのためのソナタ イ長調(Franck:Sonata for Violin and Piano in A major)
(P)ロベール・カサドシュ:(Vn)ジノ・フランチェスカッティ 1947年5月7日録音(Robert Casadesus:(Vn)Zino Francescatti Recorded on May 7, 1947)

[2024-04-14]

ベートーヴェン:序曲「コリオラン」, Op.62(Beethoven:Coriolan, Op.62)
アルトゥーロ・トスカニーニ指揮 NBC交響楽団 1945年6月1日録音(Arturo Toscanini:NBC Symphony Orchestra Recorded on June 1, 1945)

[2024-04-12]

モーツァルト:弦楽四重奏曲 第3番 ト長調 K.156/134b(Mozart:String Quartet No. 3 in G Major, K. 156)
パスカル弦楽四重奏団:1952年録音(Pascal String Quartet:Recorded on 1952)

[2024-04-10]

ハイドン:弦楽四重奏曲第1番 変ロ長調「狩」,Op. 1, No. 1, Hob.III:1(Haydn:String Quartet No.1 in B-Flat Major, Op. 1, No.1, Hob.3:1, "La chasse" )
プロ・アルテ弦楽四重奏団:1938年6月5日録音(Pro Arte String Quartet:Recorded on June 5, 1938)

[2024-04-08]

ラフマニノフ:ピアノ協奏曲第2番 ハ短調 作品18(Rachmaninov:Piano Concerto No.2 in C minor, Op.18)
(P)ジェルジ・シャーンドル:アルトゥール・ロジンスキ指揮 ニューヨーク・フィルハーモニック 1946年1月2日録音(Gyorgy Sandor:(Con)Artur Rodzinski New York Philharmonic Recorded on January 2, 1946)

[2024-04-06]

シベリウス:交響的幻想曲「ポヒョラの娘」(Sibelius:Pohjola's Daughter - Symphonic Fantasy Op.49)
カレル・アンチェル指揮:チェコ・フィルハーモニー管弦楽団 1962年6月7日~8日録音(Karel Ancerl:The Czech Philharmonic Orchestra Recorded on June 7-8, 1962)

[2024-04-04]

ベートーヴェン:ロマンス 第2番 ヘ長調, Op.50(Beethoven:Romance for Violin and Orchestra No.2 in F major, Op.50)
(Vn)ジノ・フランチェスカッティ:ジャン・モレル指揮 コロンビア交響楽団 1952年4月23日録音(Zino Francescatti:(Con)Jean Morel Columbia Symphony Orchestra Recorded on April 23, 1952)

[2024-04-02]

バルトーク:弦楽四重奏曲第6番, Sz.114(Bartok:String Quartet No.6, Sz.114)
ヴェーグ弦楽四重奏団:1954年7月録音(Quatuor Vegh:Recorded on July, 1954)

[2024-03-31]

ベートーヴェン:ロマンス 第1番 ト長調, Op.40(Beethoven:Romance for Violin and Orchestra No.1 in G major, Op.40)
(Vn)ジノ・フランチェスカッティ:ジャン・モレル指揮 コロンビア交響楽団 1952年4月23日録音(Zino Francescatti:(Con)Jean Morel Columbia Symphony Orchestra Recorded on April 23, 1952)